院長インタビュー

どの世代に対しても予防管理が中心

安藤 一夫 院長

貴院は都内有数の住宅地で昭和7年に開業された歴史のある医院ですが、ご実家の医院を継承なさってから、患者層やニーズの違いがあると思います。そんな中でも初代院長の頃から変わらない貴院のポリシーがございましたら教えてください。

この成城という地域に密着し、一人ひとりの患者さんのお口の健康を。

守り続けたいと考えています。患者さんは高齢の方が多く、全体の半分以上を占めています。

かかりつけ医や定期管理が歯科医院では常識になりつつありますが、特に成城のような古くからの高級住宅地において患者さんのライフステージ(年齢・立場・職業)に合わせた治療・予防をどのように実践されていますか?

三世代に渡ってご家族で来院される方々も多くいらっしゃいますが、基本的にはどの世代の方に対しても予防管理が中心になります。

私だけでなく医院全体で予防に力を入れています。

歯科も全身との兼ね合いを要求される時代になりましたが、基礎疾患(高血圧症・高脂血症・糖尿病等)を抱えている患者さんへの対応・他科との診診連携はどのようになさっているか教えてください。

私は日本障害者歯科学会の認定医として、障害をお持ちの方の診療経験もかなりあると自負しております。当院は大学病院からの紹介などもあり、全身疾患をお持ちの方やガンの方も多くいらっしゃっています。

私の従兄弟がやっている循環器内科のあんどうクリニックが当院の向かいにあり、そことしっかりと連携を取っているため、もし何かあったとしても迅速な対応が可能です。

よく噛むための入れ歯治療

先生は入れ歯や補綴治療を専門とされていると聞いておりますが、興味を持たれたきっかけを教えてください。

安心・安全な入れ歯治療を提供しています。

大学時代に総義歯を専門にされている先生がいらっしゃり、とても技術力の

高い方でした。その方が、「自分の思ったとおりに治療できるのは総義歯だ」とおっしゃっていたのを聞いて、総義歯に興味を抱きました。その後、総義歯を1年間専攻してから大学院に4年通いました。大学院では総義歯ではなく、補綴治療を研究し、様々な治療に対応できる技術を身につけました。

貴院ではインプラントバッシングが始まる以前からインプラントより入れ歯をお勧めされていますが、その理由・入れ歯の優位性を教えてください。

欧米では下顎に1、2本のインプラントを入れてから義歯を入れるのが基本になっています。日本ではインプラントをした後に入れ歯を入れるのは一般的ではないですが、それについては補綴学会で研究しています。

その方法以外の義歯の場合、インプラントは必要ありません。現在、インプラントを主流とした補綴処置をする歯科医師が多く、義歯を入れるケースでもインプラントをすることが多いため様々な問題になっています。

また、歯科医師同様に歯科技工士もインプラントの情報図を作る人は多くなっていますが、きちんと構造設計をした義歯を作ることができる人が減っているのも問題ですね。かつて一緒に研究していた東京医科歯科大学の技工の教授も歯科技工士になる人の数が減っていることを問題だとおっしゃっていました。

インプラントは定期的なメンテナンス、コントロールができるうちは良いのですが、介護施設などに入居する高齢者がインプラントのコントロールができなくなり、人のインプラントを抜こうとしても抜けずに、そのままインプラントがお口の中に残ってしまう高齢の患者さんが増えているのも問題です。

また、上顎と下顎では歯を抜いた後の骨が吸収する方向が違います。例えば、下顎ではインプラントを入れる位置と元々歯があった位置は違ってしまいますから、インプラントを入れる位置に補綴をすると本来あるべき位置ではない所に入ってしまいます。その結果、患者さんのかみ合わせが狂ってきます。

もちろんインプラントに適応する症例はありますが、現実はインプラントが適応する症例は1割と言われています。しかし、臨床現場の欠損補綴では、インプラントを勧めるケースが8割以上というのが実態と言われています。

インプラントでなくても処置できるのにインプラントを行っている場合も多いため、様々な問題が起こっています。インプラントを否定するわけではありませんが、しっかりと診査・診断を行った上で治療方法を選択しなければなりません。

貴院では保険適応の入れ歯のほかにアタッチメント式入れ歯やフレキシブルデンチャー、磁石式入れ歯などを提供されていますが、その違いや特徴を教えてください。

保険適応の入れ歯はバネがたくさんあるため、動きやすい、残った歯がダメになることが多い、バネに食べ物が引っかかりやすい、見栄えもあまり良くないというデメリットがあります。

一方、アタッチメント式入れ歯は自然なつけ心地で、患者さんからの評判も良く、おすすめです。

また、フレキシブルデンチャーは材質がやわらかく、審美性は高いのですが、噛み合わせを支えるための金属がある程度必要であると補綴学会では言われています。

磁石式入れ歯に関しても、磁力があるためMRIの画像が乱れてしまうので、あまりやっていません。

ですから、デメリットが少なく、使用感の良い上にお手入れが簡単なアタッチメント式入れ歯を多く提供しています。

継続的なメンテナンスが大事

貴院のスタッフ構成を教えてください。また、スタッフ採用・教育・マネージメントで気をつけていることを教えてください。

患者さん一人ひとりに合わせた治療・対応を行っています。

歯科医師が2人、歯科衛生士が3人、歯科助手が2人、受付1人です。

当院のスタッフは、自主的かつ積極的に勉強会に参加し、日々研鑽を積んでいます。採用においては、やる気、明るさ、患者さんの気持ちを考えられるという点を重視しています。医院の雰囲気は明るくて楽しいですよ。

好んで歯科治療をしたい方はほぼいないですから、患者さんとのコミュニケーションを取る上で明るさは大事だと思います。

高齢の方やガンの方、老人ホームに入られている方も多くいらっしゃるため、やりたいけどできない治療もあります。ですから、医院全体として患者さんのニーズに合った、そして可能な治療を提供しています。

メンテナンスの時にむし歯と歯周病以外にチェックしていることはございますか?

わかりやすい説明・ブラッシング指導を心がけています。

必ずお薬手帳を見せていただいて薬を服用している薬をチェックしたり、血圧を測ったりして、全身管理を行った上で処置しています。

場合によっては、抜歯出来ないこともありますからね。また、歯ぎしりや食いしばりが癖になっている方が多いので、それらのチェックもしています。

患者さんにメンテナンスを継続的に行ってもらうために、どのような工夫をしていますか?

一人ひとりの患者さんに応じたリコールのはがきをお送りしています。継続的なメンテナンスはお口の健康、そして全身の健康維持につながりますからね。

貴院は消毒、滅菌などの設備に非常に力を入れていますが、感染予防で気をつけていること、設備投資していることがありましたら教えて下さい。

当院は、日本の歯科医院では、まだ滅菌意識が高くなかった頃から力を入れて取り組んできました。エプロンなど、お口に入る可能性があるものは全てオートクレーブという滅菌機に入れて滅菌しています。

患者さんが病気をお持ちであると申告されなかったり、ご存じなかったりする場合があるため、極端かもしれませんが全ての患者さんが感染症であると考えて完全滅菌を行っています。また、使い捨てで使用できるものは使い捨てにしています。

患者さんの喜びは、私の喜び

休みの日は何をされていますか。

世田谷区の歯科医師会口腔衛生センターの医局長をやっているため、お休みがあまりありませんが、最近孫が生まれたので孫の世話をしようかなと思っています。

歯科大での学びや大学病院や勤務医時代、また現在も行われている大学講師業、障害者歯学会での経験で、臨床に活かしていることを教えてください。

大学時代は、もちろん勉強もしましたが、同時にたくさんの人とのつながりも得ました。

開業医では手に負えない症例に出会った時、大学病院には大学の教授である同級生や口腔外科を専門にしている下級生がいて強い連携を取っているため、そこに患者さんを私自身が連れていって紹介しています。難しい症例を何でも自分で手がけようとすると無理が出てきますからね。

また、現在東京医科歯科大学で大学講師をしておりますが、学生たちにゼロから教えるのは楽しく、良いリフレッシュになっています。さらに、障害歯学会の学会に出て得た知識は、脳性麻痺や発達障害だけでなく高血圧や心臓病などを抱えていらっしゃる方々の臨床に活きていると思います。

歯科医師になられた動機を教えてください。

子どもの頃から、祖父の歯科医院に入り浸り、歯科治療を行う祖父の姿を見て憧れていました。父や他の親族が医師ですから、誰も祖父の歯科医院を継ぐ者がおらず、小学生の時に祖父に「継いでくれ」と言われ、歯科医師になることを決めました。

臨床現場で喜びを感じるのは、どのような時ですか?

患者さんが治療結果に満足し、喜んでいただけた時は嬉しいですし、この仕事をやっていて良かったなと思います。

最後に貴院の今後の展望・展開を教えてください。

一緒にお口の中の健康を守りましょう。

医院をむやみに大きくしたり分院を開業したりせずに、今まで通りこの地域の皆さんのお口の健康を地道に守り続けていきたいですね。